Pascucci 1826
The Story

パスクッチ1826は、ロマーニャ地方のガンベットラで、1826年から7代に渡り手彫り木版染めの伝統を守り続けている職人工房です。

中世の街並みが多いイタリアの中で、ガンベットラは比較的新しい町です。初めて工房を訪問した時、カーナビに従いガンベットラ周辺を運転しながら、ここに1826年から続く工房があるのだろうか…そんな不安が湧いてきました。
しかし、パスクッチの工房に着くと、そこには本当に歴史のある工房だけが持つ、決してごまかしようのない、歴史と伝統の香りが漂っていました。
過去から現在への時間の流れや人のつながりを肌で感じられる場所に出くわす時、私は安心感に包まれます。パスクッチは、まさにそんな工房でした。

 

歩道沿いには2つ入口があります。一つは木版染め工程をしている工房への入り口、もう一つはショップの入口です。200年も時間が遡ってしまったような工房の前で釘付けになり、何百ものリネンが所狭しと並ぶショップの入り口の前では息を呑みました。

長い髪を結え、まるでフォークのミュージシャンみたいな優しい笑顔の7代目ジュゼッペさんに、さらに中に案内してもらうと、工房は中庭を挟み奥まで続いており、黙々と製作を続ける職人のいる工房、1800年代の巨大なマンガノ(脱水絞りの機械)のある工房、そして、あちらこちらに3000個以上の木版や様々なリネンが所狭しと置かれていて、どの時代にどこにいるのか混乱してしまうような情景が続きます。

パスクッチは、創業以来、手彫りの木型に染料ペーストを染み込ませ、リネン生地に幾何学模様や花柄、動物など、民衆が伝承してきた図像を染める昔ながらの方法を守り続けています。200年近くの間に変わったのは、今では見つからない麻生地がリネンに変わった事と、当時使用していたマンガノ(脱水絞り)の代わりに近代的な脱水技術やアイロンを使用するようになったことのみです。

当時、資本家階級はクロスに自然の植物を簡略化した図案の刺繍をしていました。しかし、農村社会では高価な刺繍をほどこすことはできず、木版染め技術で刺繍に使われていた模様を模倣しました。使われた色は、この地の伝統である酸化鉄から生まれる錆色でした。今日では、現代人の好みやニーズに合わせて、模様や色の幅が広がっていますが、やはり錆色の伝統模様のリネンは、現在でも大きな魅力があります。

色の調合は、密かに守られてきた昔ながらの方法で行われ、梨の木に手彫りされた木彫型とその製造技術も、パスクッチ一族が受け継いだ遺産の一部です。

工房のあちらこちらにさりげなく置いてある3,000個以上の型は、長い年月をかけて一家の手で彫られたものです。木槌で叩いても壊れない梨の木から削り出され、その美しさから型さえもが芸術品と言えます。

型を色に浸した後、リネンに丁寧に置き、重い木槌で1回、2回、3回、と必要なだけ打ち付けます。
その後、布を川の葦の上に広げて一晩乾燥させ、模様を定着させたら、錆と天然色は塩基性溶液に、それ以外は湯と酸の浴槽につけます。

木版染め技術は、型を横にずらしながら次々と手で叩いて模様をつけていくので、つなぎ目が見えたり、模様や色もさまざまな要因で微妙に変化します。スクリーン印刷の模様がフラットで均一な色であるのに対して、木版染めの模様の微妙な変化は、トントンという木版を叩くトンカチの音が記憶の奥底に響いてくるようで、パスクッチのリネンが私を魅惑してやまない一番大きな要因かもしれません。

 

 

 

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