Haunold
The story

 

Haunoldのフェルトルームシューズを作っているのは、1560年から今まで羊毛職人の伝統を引き継いでいるザッハー家の兄弟姉妹5人です。
1880年に、当代の曾祖父が南アルプスHaunold山(イタリア語ではRocca dei Baranci 2966メートル)の麓にある小さな街サン·カンディドで、フェルトの帽子を主に、フェルトの靴底·スリッパ等、フェルト商品の工房を営みはじめました。当時は20人の職人や弟子を抱える大工房だったそうです。
先代のレオポルド·ザッハーが、製品に “Haunold ”という名前をつけ、当代の兄弟姉妹5人が団結して手づくりフェルトの伝統を忠実に守り、羊毛から、すべての加工工程を自社工房で行なっています。
Haunoldのフェルトは、チロル·アルプス産の羊からとれた最高品質のピュアなバージンウールを使用し、昔ながらの方法、水、蒸気、圧力、石鹸、だけでつくられています。

 

 

「チロル·アルプス産の最高品質のウール」とさらりと書くと、まるで「最高品質のマットレス」と同じレベルで、「ふうん、そうか」で終わってしまいそうですが、この羊たちはそんじょそこらの羊とはちょっと違うのです。
サン·カンディドから150キロほど離れたセナレス渓谷は、オーストリアとの国境に近いアルプス南部の、セナレス川に沿った谷の名前です。
そしてこの地は600年の移牧の伝統で有名です。現在でも、移牧の文化は住民の生活に深く根付き、ユネスコの無形文化遺産にも認定されています。
6月になると、羊飼いたちは何千頭の羊と牧羊犬を連れ、標高差3200メートルの登り、1800メートルの下りを越え、44kmにわたる渓谷を2日かけてオーストリアまで移動します。夏場を高地で過ごし、9月になると同じ道を移牧してセナレス渓谷に戻ります。毎年、羊飼いと羊たちの帰省を祝うお祭りが盛大に行われます。
私は、なぜか羊には強い親近感を持っています。イタリアで田舎に行くと、牛とかヤギ、羊に遭遇することがよくあるのですが、牛はこちらを疑い深い目で見ている気がするし、ヤギは単に不機嫌だからと当たられそうな気がするし、視線を合わさないように、あらぬ方を見ながら通り過ぎることにしています。その点、羊はこちらの目を見つめないし、何となく気弱そうだし、何より顔つきが優しい。子羊たるや、その愛らしさに家で飼いたくなるほどです。(ちなみに、家の犬は子羊タイプです)

 

このセナレス渓谷の大移牧、希望者は参加できるそうですよ。私も、もう少し若かったら参加してみたかったな、と思います。自然の中を何千匹の羊と共に2日歩き、シンプルなもの食べて、降るような星の下で眠り、陽のある間はただ歩く…
3か月も、羊と共に、山の中で孤独な生活するってどんなものだろう…
普通の人なら誰でも疑問に思いますよね。セナレス渓谷の羊飼いの、とても素敵なインタビューを読んだので、いつか許可を取ってここで訳してみたいと思いますので、お楽しみに。

 

 

Haunoldのフェルトに使用される「最高品質のチロル·アルプス産の羊毛」とは、移牧しながら、清涼で広大な自然な中でストレスなく夏を過ごすセナレス渓谷の羊のものです。(何千頭で共同生活をしていると、性格の悪いのや、おせっかいな性格の羊がいて、結構ストレスのある生活をしている可能性もありますね)
解放的な環境で育つセナレス産の羊毛は、特別に堅硬で、ルームシューズの底の部分に使用されているそうです。
天然繊維であるフェルトは、寒い時期には暖かく、暖かい時期には涼しく、調温性に優れています。純羊毛フェルトは、足にとても気持ちよくピリピリしません。私は7/8月の猛暑の時期を除いて、一年中使用しています。
メンテナンスもとても簡単です。ウールが空気に触れると自ら洗浄し、臭いを中和してくれるからです。数年間使用しても、まるで数日前に買ったばかりのように見えます。
移牧の物語を知った後は、時々自分のルームシューズを眺め、「あぁ、遠い旅をしてきたね。ごくろうさまでした」と思います。
サスティナブルで、人類が生み出した素晴らしい素材の一つですね

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ザッハー家の工房に話を戻します。
当代は、6人兄弟の長男を除く5人がHaunoldの仕事に関わっています。ヘドウィグとクリスティーナの姉妹二人が販売とマーケティング、双子の兄弟アロイス、フリードリヒが製造担当、そしてハンネスが羊毛担当です。その他、義理の姉や妹、15人の甥と姪が出入りするにぎやかな工房です。
フェルト作りですが、自然のままの羊毛を洗浄し、柔らかい綿状態にして、梳き機で繊細な平面に仕上げます。水、熱、蒸気のみを使い、圧力でプレスすると、柔らかいフェルトが出来上がります。そして、ここで曾祖父が1901年に購入した歴史的なハンマー·フル―イング·マシンを使用し、2度目にフェルトを叩き、さらに水と圧力で適当な堅さを持ちながらも柔らかく弾力性があるフェルトが完成します。
底と甲の部分は縫い合わされているのではなく、羊毛をフェルト化する際に一体化していますので、縫い合わされているのは、ヴェルベットの縁取りだけです。

 

 

過去、他の一体成型のフェルトのルームシューズを試したこともありますが、数年で形が崩れてしまいました。Haunoldのルームシューズが、何年たっても型崩れしないのは、1560年から帽子を、そして現在は主にルームシューズを作っているザッハー家の、何代にもわたり受け継がれてきた羊毛加工技術があるからこそだと思います。
効率に重きを置く現在、伝統の手法で、地元の羊毛で作るHaunoldのこだわり商品を維持していくことは大変な努力のいることだ、とクリスティーナさんは誇りに満ちた表情で語ってくれました。
確かに、簡単なことではないと思います。でも、ザッハー家の5人兄弟の素晴らしい笑顔と、15人の甥と姪のことを考えると、きっと何十年後も、曾祖父の1901年に購入したマシンを修理しながら、伝統的なフェルト作りの技法を伝え続けてくれると思います。
品質だけではない、人の歴史がこのルームシューズには織り込まれていて、毎日使用しながら安心を感じるのです。工業製品のスリッパからは感じられない何かを。手づくりの商品の素晴らしさって、これですよね。

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